「スノーリバース」
登場人物
冬野悟 トウノ サトル:21歳。男性
病気がちな美雪を治すために医学部に入学するも、その後美雪は亡くなってしまい、
生きていく意味を見失ってしまう。しかし、生前に交わした約束を守るために毎年冬に
地元へ帰る健気で優しい青年。
楠原美雪 クスハラ ミユキ:18歳(没時)。女性
幼少のときから重い病気を患っていて、17歳の時にそれが悪化し、
悟の大学の合格が決まった翌日に亡くなる
*表記方法+配役+台詞数(Lines)*
悟: L48
美雪+ナレ: L48
※N=ナレーター
M=心の声
悟N:四季シリーズ 冬 スノーリバース
−街を見渡せる丘へと走る美雪と、それを追う悟−
美雪:悟君ー、はーやーくー!追いてっちゃうよ―!
悟:分かったから走るなって。体に悪いだろ
美雪:だってー、この街で雪が降るのって珍しいじゃない!……うわぁ!すごーい
悟:よっ、と……。おぉ、ホントにすげぇな……一面が真っ白だ
美雪:こういうのを銀世界って言うんだよね?
悟:銀には見えないけどな
美雪:……悟君、感受性薄いんだね
悟:そ、そんなことないぞ!?あー、なんか急に銀色に見えてきたなぁ
美雪:……嘘つき
悟:うっ……でも、景色が綺麗だってのはホントだからな
美雪:そうだね、すっごく綺麗……
悟:……
美雪:ん、どうしたの?
悟M:お前の方が綺麗だ、なんてクサイ台詞、言ったら恥ずかしくて死んじまうよ……
美雪:悟君、顔あっかいよー?
悟:え!?な、なんもねぇよ
美雪:変な悟君ー……クスクス
悟:ふん……ほっとけ
美雪:(少し間を空ける)でも、こうやって悟君と話しながらこんなにきれいな景色見ることも、もうなくなっちゃうのかな……
悟:そんなこと言うなっ!絶対に医学部合格して医者になって、俺が、俺が絶対治してやるから……
美雪:うん、ありがとう
悟:だからこれからも毎年お前と雪を見るんだ
美雪:うん、そうだね……
悟:あぁ……
美雪:(少し間を空ける)もし……
悟:ん?
美雪:もしもだよ
悟:もしも……なんだよ?
美雪:もし、私が死んでも―――
――――――――――――
――――――
―――
悟:美雪っ!
ナレ:夢から覚めた悟は勢いよく体を起こし、手を伸ばすも空をきる。電車の中で眠ってしまっていたようで、
悟の行動に周りの人がいぶかしそうな目で見ている
悟M:美雪……
ナレ:悟は寝起きで頭に霧がかかった状態のまま、横にあるクーラーボックスを見る。何分か揺られた後、
目的の駅で降りる。空は曇り、冷たい風が吹いている。悟は山の方へ向かって歩き出す。
悟:美雪……もうすぐだからな
ナレ:悟はそう呟きながら、美雪が亡くなってからの事を思い出す
悟M:美雪が死んでから、何をするにしてもやる気が起きない……。せっかく入った医学部も美雪がいなかったら意味がないじゃないか。
人の生き死になんてどうも感じなくなった。俺はあの時から……美雪と一緒に時間が止まったままなんだろうな
ナレ:そのような事を考えている内に、悟は夢で見たあの丘にたどり着いていた。
ゆっくりと丘へのぼり、美雪といた思い出の場所に立つ。悟は肩に掛けたクーラーボックスを下ろし開ける。
中身は雪で一杯に詰まっていて、ひんやりとした冷気が漏れ出し、辺りを包み込んだ
悟:美雪、今年も約束守ったぞ。流石に今年は来ないと思ってたろ?
ナレ:口調は笑いながら、しかし今にも泣きそうな顔をしながら誰も居ないはずの場所に話しかける
悟:昔から忘れっぽいって言われてた俺が、毎年しっかりと来てるなんて……すごいこと、なんだからな……
だから……だからよぉ、もう一度、顔を見せてくれよ……!
ナレ:悟は地面に手を付き、拳を叩き付ける。その時、悟の手の甲へと白く冷たいものが当たった
悟:これは、雪……?……っ!?
ナレ:強い風が吹き、悟は腕で顔を覆った。風が止んだ後、腕を下ろし目を開けると、
誰もいなかったであろう目の前に、亡くなったはずの美雪の姿があった
悟:美……雪……?
美雪:悟君……
悟:ホントに……美雪、なのか?
美雪:うん……
悟:てことは、やっぱり……幽霊……
美雪:多分そうだと思う。私が死んだ後も意識はずっと残ってて、けど何も出来なくて……
悟:そう、なんだな。…………なぁ。俺、毎年お前の約束を破らなかっただろ?
美雪:そうだね。あんな無茶なこと言っちゃってごめんね。『私が死んでも、毎年雪を見せてほしい』なんて……
悟:そんなの気にしてねぇよ。美雪のいつもの注文だからな
美雪:……そんなに無茶なこと言ってた?
悟:はは、言ってたよ。20mもある木のてっぺんまで登ってとかテストの点数を
0点から100点までコンプリートしろとか、バントでホームランしてとか―――
美雪:でも。もう、いいの
悟:え?……何のことだよ?
美雪:こうやっていつまで悟君と話出来るか分からないから言うね。
……もう、約束なんて忘れていいんだよ。私に……縛られなくていいんだよ
悟:い、いきなり何言ってんだよ、それに俺は別に縛られてなんて―――
美雪:嘘。……大学の医学部、辞めようとしてるんじゃないの?
悟:っ!それは……
美雪:私が死んだ日……美雪がいなくても頑張るからなって悟君、言ってた。私、ちゃんと聴こえてたよ
悟:……
美雪:あれは、嘘だったの……?
悟:……そんなこと、ない
美雪:じゃあなんで―――
悟:あぁ、そうだよ!そんな言葉嘘に決まってんだろうが!!
美雪:悟君……
悟:お前がいなくなってから毎日寂しいんだよ!胸の所にポッカリ穴が出来たみたいで、
苦しくて!辛くて!悲しくて……どうにもなんねぇんだよ!
美雪:ごめんね……
悟:謝らなくてもいいっ!ただ俺は……美雪の前ではカッコいい俺でいたかったんだよ!
美雪:(間を開けて)悟君、私が悟君にしたもう一つの約束……覚えてる?
悟:……いや、覚えてない。ごめん
美雪:ふふ……やっぱり覚えてないよね、本当に昔の事だから
悟:もう一つの、約束……?
美雪:そう。小さい時から体が弱かったから病院でいてばっかりだったよね。で、そんな私の側で
悟君がよく言ってくれたんだ。俺がお医者さんになってお前の病気治してやんよ、ってね
悟:あぁ……それが医者を目指すきっかけだから
美雪:それでその時に一度だけ言った言葉があるんだけど、覚えてる?
悟:いや……覚えてない
美雪:……『私だけじゃなくて世界中の皆の病気を治せるお医者さんになってね』って、言ったんだ
悟:っ!?…………そういえば、思い出した
美雪:それなら、今度はもう一つの約束を守って、欲しいな……皆に優しかった悟君が、私は好きだから
悟:……
美雪:悟君……
悟:ホントに、また無茶な注文……しやがって
美雪:ごめんね、また私の約束で悟君を縛り付けちゃって……
悟:いいんだよ。俺は好きな奴の約束破るような男じゃねぇからな
美雪:そう、だったね……。本当に……本当に、ありがとう―――
悟:っ!?……頭が急に……、みゆ……き……
――――――――――――
――――――
―――
ナレ:いきなり目の前が白くなり、気を失った悟。そして何十分経っただろうか、地面に大の字で
倒れたまま目を覚ました。雪は依然変わらず降り注ぎ、町を白に染め続けていた
悟:あれは、夢……だったのか……?
ナレ:その問いに雪が答えてくれるはずも無く、ただ呆然としたまま宙を見ていた。
まだどこか虚ろであったが、頭の中で美雪の声が今も確かに残っていた
悟M:あれが本当だとしても……もう、会えないんだろうな
ナレ:しかし悟の表情は美雪と会う前に比べ、どこか朗らかであった
悟M:……約束、守ってやんよ
ナレ:悟は立ち上がりゆっくりと歩き出した。その時、曇り空から一筋の光が差し込み、
積もっていた雪を白から銀に染め上げる。それは悟のこれからを導くかのように輝いていた
−fin−