武巳N:月シリーズ 四月 ウルフガール
1.
葵:たーけみっ!おはよーっ!
武巳:よぉ
葵:ぶー、なんだよー
武巳:なんだよってなんだよ……
葵:せっかくこの麗しの美少女葵ちゃんが朝から挨拶してやってるのに、「よぉ」の一言で終わりなの?
武巳:はいはい、美少女美少女
葵:うー、なんでそんなに邪険にするのさー
武巳:自分の胸に手を当てて心の声を聞いてみろ
葵:(胸に手を当て)んー……
武巳:何か聞こえたか?
葵:葵ちゃん可愛いって言ってる
武巳:バカヤロウ
葵:いたっ!なんでぶつのさー!
武巳:そうやって今みたいに嘘ばっか吐(つ)くからだろ
葵:えー、私嘘なんか吐いてないよー
武巳:いや、もうそれが嘘だろ。学校の奴らから狼少女って呼ばれてるじゃねーか
葵:……そんなあだ名があったの、私?
武巳:知らん振りをするな。おとといこの話題したからな
葵:でも格好良くない?狼少女。英語にするとウルフガール!ワオーン!
武巳:はいはい一人でやってろ
葵:んじゃ、私こっちの教室だから。またねー
武巳:はいはい
葵:はいはい、じゃなくてバイバイでしょ!
武巳:はいはい
葵:もーっ!
2.
葵:ねー、武巳ー
武巳:なんでしょうか、お前から逃げるために屋上に来たのに何故か先回りしてやがった葵さん
葵:そんなに照れなくてもいいじゃーん
武巳:照れてない
葵:でもなんだかんだ言ってちゃんと私に構ってくれるんだもんね。ツンデレ?
武巳:誰かが構ってやらないとあの童話みたいになっちまうからだ
葵:いつか、「いやーん、恐い狼さんに食べられちゃうー」って?
武巳:言い方がやらしい
葵:どこがよー
武巳:……でも本当に困ってたら相談しろよ?嫌がらせ受けたりとか
葵:うーん……
武巳:もしかして、あるのか……?
葵:ううん、ないよー
武巳:本当か?
葵:無いってばー
武巳:そっか
葵:へへー
武巳:……なんだよ
葵:そういう系の嘘なら武巳を騙せるんだなーって
武巳:もう騙されないからな
葵:ふふー、どうかなー……あ、チャイムもうすぐ鳴るから先に行くねー
武巳:おう
葵:たけみー
武巳:ん、なんだ?
葵:……ありがとうね
武巳:……おう
3.
葵:たけみー、帰ろうぜ―!
武巳:あー、そういやせんせいによばれてるんだったなー
葵:見え見えの嘘を吐くなー!
武巳:うお、なぜバレた?
葵:ウルフガール葵ちゃんには嘘は通じないのですよ、わおーん!
武巳:さいですか
葵:さいです
武巳:……なぁ
葵:んー、なぁに、武巳ー?
武巳:嘘吐くの、止めたらどうだ?
葵:えー
武巳:えー、って……
葵:嘘を吐くのがもう私のアイデンティティだからね!
武巳:……ああそうかい
葵:武巳、ちょっと怒った?
武巳:怒ってねーよ
葵:怒ったでしょ?
武巳:……先に帰る
葵:あー、待ってよー!……行っちゃった。
葵:……私だって、好きでこうなった訳じゃないもん
4.
武巳:葵!同じクラスの奴の財布盗んだって本当なのか!?
葵:……もう武巳の所まで広まってるのかぁ
武巳:おい、どうなんだよ!
葵:私じゃないよ!
武巳:聞いた話だとお前の鞄に入ってたみたいじゃないか?
葵:きっと誰かが入れたんだよ!
武巳:体育の時に体調悪くて授業抜けたって聞いたぞ
葵:ホントに悪かったんだもん!
武巳:でも他に途中で抜けた奴いなかったんだろ?
葵:それは!……そうだけど
武巳:……どうして人の物盗もうと思ったんだ
葵:盗んでないってば……信じてよ、武巳……
武巳:嘘をつくだけなら良かったけど、物を盗むなんて最低のこうい……っ(←何かに気付いたような感じで
葵:……武巳だけは、信じてたのに
武巳:あの、言いすぎた。すまなかった―――
葵:(武巳の『すまなかった』に被るように)武巳のバカッ!大嫌いっ!!
武巳:おいっ!?葵!…………葵
5.
SE:ピンポーン
葵:はい……卯月ですが……
武巳:葵か?俺だ、武巳だ
葵:……何しに来たの?
武巳:謝りに来た。あの時は言いすぎた
葵:もういい
武巳:もういい、って……
葵:もういいの!ほっといて!
武巳:ほっとける訳ないだろ!
葵:結局武巳も他の人と同じで私のこと全然わかってくれなかったじゃないっ!!
武巳:そんなことない!
葵:嘘だよ!
武巳:嘘じゃない!
葵:どうしてそう言いきれるの!?
武巳:信じてるからだよ!お前のこと!
葵:っ……!
武巳:わざわざお前ん家に来てまで嘘言う理由なんてないし。それに俺のこと信じてたんだろ?なら、虫のいい話かもしれないけど……俺の言葉も信じてくれよ
葵:……じゃあ、あの時信じてくれなかったのは?
武巳:あれは、その……虫の居所が悪かったからというかなんといいますか……ボソボソ
葵:…………
武巳:葵……さん?
葵:嘘吐くの、やっぱり下手だね
武巳:う、嘘じゃねーし!
葵:……私ね、小さい頃身体が弱くてクラスの皆からいじめられてたんだよね
武巳:え……
葵:あ、もちろん今は元気ピンピンだよ?で、その当時はいじめから逃げるためにどうしたらいいかって悩んだんだ。
無理に明るく振る舞ったりとか、全部無視するとか……色々試してみたけど全然効果なくてさ。
で、その中で一番効果があったのは嘘をつくことだったんだよ。皆、「卯月に関わるとややこしくなる」って
言ってさ。そしたら嘘をついて皆と一線を張ることが当たり前になってきて、どうしたらいいのか分かんなくなっちゃった
武巳:それならなんで俺と普段一緒に……?
葵:別に人と一緒にいるのが嫌なわけじゃないんだよ。けど仲良くなる前に嘘をついて離れてっちゃうから……。
けど武巳はそれでも私のことを嫌わなかった
武巳:まぁ確かに嘘つかれるのはイラって来るけど、それだけで人を嫌いになんてならないよ
葵:……ありがと
武巳:……おう
葵:……いいよ、武巳の事もう一回信じてみる
武巳:ホントか……?
葵:だけど
武巳:ん?
葵:武巳も私の事、信じてね
武巳:おう。……とりあえず言いたいこと言えたから、それじゃあ帰るわ
葵:あ、ちょっと待って
(少し間を開ける)
SE:ガチャ
葵:……よっ
武巳:……よっ。どうした?
葵:直接、顔見たかったから
武巳:さいですか
葵:さいです。……武巳
武巳:うん?
葵:大好き
武巳:……え?
葵:プッ……嘘だよー!
武巳:……葵
葵:んー、なぁに?
武巳:俺も好きだ
葵:え?何、いきなり?
武巳:お前の事が好きだ
葵:え?そんな、私、冗談で言ったつもりだったのに……
武巳:プッ……嘘だよ
葵:もー!騙したな―!
武巳:ハハ、お返しだよ。……そんじゃーな
葵:うん、また明日
武巳N:ウルフガール、終わり