夕凪色ドロップス
 
登場人物
 
池崎  :25、6歳 男性 
 
少年  :10歳 男性
 
池崎母・友人英太の母:50代 女性
 
ナレーション・SE:不問
 
 
 
 
 
 
 
 
*表記方法+配役+台詞数(Lines)*
 
池崎: L46
 
少年: L21
 
池崎母・英母: L14
 
ナレ・SE: L16
 
 
 
 
N:ナレーションの意
M:心情の意
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
池崎M:人生に疲れた、とでも言えばいいのか。二十代の若造が何を言ってると罵倒されるかもしれないが、辛さを受容できる量なんて
人によって違うじゃないか・・・と思って会社を有給で休んだはいいが・・・どうしようか
 
 
 
 
 
ナレ:夕凪色ドロップス
 
 
 
 
 
SE:ガラガラガラ(家の扉を開ける音(横開き))
 
 
池崎母(以下母):あら!?いきなりどうしたのこっちに帰ってくるなんて
 
 
池崎:あぁ、久しぶりに田舎の空気を吸おうと思ってね
 
 
母:来るなら連絡してくれないと、お母さんあんたの晩御飯用意してないよ
 
 
池崎:いいよ、ありもので何かテキトーにつくって
 
 
母:あらー・・・
 
 
池崎:どうしたの?
 
 
母:いやー、なんか言い方がお父さんに似てきたと思って
 
 
池崎:あっそ
 
 
母:なぁに、嫌なの?
 
 
池崎:別に・・・外に出てくる
 
 
母:晩御飯前には帰ってくるのよー
 
 
池崎:はいはい
 
 
ナレ:あぜ道を歩く池崎。時刻は昼過ぎで太陽の陽射しがまぶしい
 
 
池崎M:懐かしい顔でも見に行くか・・・
 
 
ナレ:行くあてもない池崎は小中で友達だった子の家に赴いた
 
 
友人英太の母(以下英母):池崎クン?あぁ!すごく久しぶりねぇ!たくましくなっちゃって
 
 
池崎:はは、まぁ・・・。ところで栄太はいますか?
 
 
英母:あー、英太はね、高校卒業して東京のほうに出ちゃったのよー
 
 
池崎:あいつがですか。意外ですね
 
 
英母:「池崎が中学卒業して都会に行きやがったから俺も絶対に行ってやる」なんて言っちゃって
 
 
池崎:・・・すみません
 
 
英母:いいのよいいのよ。でも、あっちに行ってからほとんど連絡よこさないんだから
 
 
池崎:僕もそうでしたから
 
 
英母:あら、そうなの?やっぱり男の子ってそういうものなのかしらね
 
 
池崎:そう、かもしれませんね。・・・それじゃあ僕はこれで
 
 
英母:またうちに来てね
 
 
池崎:はい
 
 
ナレ:その後他にも友達だった子の家に何軒か寄ってみたところ、全員この町から出て行ってしまったそうだ。田舎の子供からしたら都会は何でもある桃源郷みたいなものなのだろう
 
 
池崎M:でも、実際はドロドロした人間関係の腐った社会なのであった
 
 
ナレ:と呟いていると、目の前に少年がいたのに気付かずぶつかってしまった
 
 
池崎:おっと、ごめんよ坊や
 
 
ナレ:転んだ少年は立ち上がりお尻の砂を払うと池崎の顔を見てにっこりと笑った
 
 
少年:おじちゃん!一人なの?
 
 
池崎:おじちゃんじゃなくてお兄ちゃん、ね。うん、まぁ一人だね
 
 
少年:僕もね、一人なんだ。だからさ、一緒に遊ぼ!
 
 
池崎:いや、俺は・・・・・・・・・いいよ。何して遊ぼっか
 
 
少年:基地を作る!
 
 
ナレ:二人は近くにある山に登り、捨ててあるシートや廃材、折れた枝などを使って基地を作る。
 
 
池崎:小さい頃よく基地とか作ったなぁ
 
 
池崎M:・・・それを上級生の子に壊されたり
 
 
少年:僕ね、こうやって基地作るの初めてなんだ
 
 
池崎:他の友達とは作らないのか?
 
 
少年:僕、よく友達とケンカするんだ。前も秘密基地作る時に「お前は乱暴だからすぐ基地を壊す」って言ってのけ者にされたんだ
 
 
池崎:あらあら・・・
 
 
ナレ:とか言っている間に秘密基地が完成する。貧相ではあるが二人が座るには十分な大きさである
 
 
池崎:よし、こんなもんだろう
 
 
少年:僕とお兄ちゃんだけの秘密基地だね!
 
 
池崎:そうだな
 
 
ナレ:しかし、この時池崎の胸にチクリとした痛みが走る。彼がここに居れるのは明日まで、明後日からこの基地にいるのはこの少年だけなのだ
 
 
 
 
 
少年:お兄ちゃん、明日もまた遊べる?
 
 
池崎:あぁ、もちろん
 
 
少年:じゃあ指切りげんまんしよっ!
 
 
池崎M:小さい時げんまんの意味が分かんなかったっけ
 
 
少年:それじゃあお兄ちゃん、バイバイ!
 
 
池崎:あぁ、また明日
 
 
 
 
 
母:おかえりなさい・・・って、あんただいぶ汚れて帰ってきたわね
 
 
池崎:あぁ、ちょっと童心に返って、ね
 
 
母:ま、どうでもいいけど。お風呂湧いてるから先に入ってきなさい
 
 
池崎:はーい
 
 
 
 
 
池崎M:ふぅ・・・ケンカかぁ。陰湿なイジメじゃないだけここは平和だな
 
 
池崎:ブクブクブクブク......(口で泡を出す音)
 
 
池崎M:俺が子供の頃もよくケンカしたなぁ。泣いて泣かされて、そして最後に仲直り。確か仲良しの印とか言って・・・何だっけ
 
 
ナレ:池崎は子供のころを思い出す。池崎少年もよくケンカをしていた。ケンカが終わるとボロボロになった二人は仲直りの握手をし、笑顔でドロップを渡しあっていた
 
 
池崎M:あぁ、仲良しの証にお互い好きな色のドロップを交換してたっけか。・・・あの子も仲直りできるといいな
 
 
 
 
 
 
 
ナレ:翌日
 
 
少年:おはよーお兄ちゃん!
 
 
池崎:よう。今日は何しようか
 
 
少年:虫取り!
 
 
池崎:虫取り網に、虫カゴ。準備良いな
 
 
少年:へへへ・・・
 
 
ナレ:山に登り虫を採る二人。カブトムシがとれ、二人は顔を合わせ満面の笑みになる。いつの間にか夕方になり、丘に出た二人は座って夕日を眺めている
 
 
池崎:今日も楽しかったな
 
 
少年:うん!
 
 
池崎:そういえば、実は君に渡したいものが―――
 
 
ナレ:ポケットからドロップの缶を出そうとすると少年は口を開く
 
 
少年:お兄ちゃん
 
 
池崎:ん、なんだい?
 
 
少年:これ、あげる
 
 
ナレ:少年は池崎の目の前に青色のドロップを差しだす
 
 
池崎:・・・これは?
 
 
少年:仲良しの印。僕の好きな青色、あげる!
 
 
池崎N:本当に、ここは昔から何も変わっていなかった。空の色も、風が凪いだ時の山の香りも、少年の笑顔も
 
 
ナレ:池崎もドロップの缶を差し出し、赤色のドロップを渡す。二人は笑顔で山を降り、出会った場所にたどり着く
 
 
池崎:お兄ちゃんは明日からまた自分の家に戻らないといけないんだ
 
 
少年:それってもう会えないってこと?
 
 
池崎:ううん、また会えるよ。だって俺たちは友達だからな
 
 
少年:・・・うん!
 
 
池崎:だけど、俺がいない間は一人になっちゃうだろ?だから喧嘩しちゃったクラスの子と仲直りするんだ
 
 
少年:えー
 
 
池崎:仲直りしないとお兄ちゃんは君と合わないよ
 
 
少年:・・・だったら、仲直りする
 
 
池崎:よし、良い子だ。・・・それじゃあね
 
 
少年:うん、またねー!
 
 
 
 
 
 
 
 
池崎M:ここに来て本当に良かった。また、明日から頑張ってみようかな
 
 
 
 
 
−fin−




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